旅行者

冬枯れの丘に
日がてれば
狐色の風景の中に
又 人影が立つてゐる

知つてゐるだらう
あれは 旅を行く人の姿だ
その人の一日を
木と花と
少しばかり 友情の雲が
つれない旅点《りよてん》の寝床が
かたちづくつてゐる

藪陰に 椿の木を見れば
その堅い蕾の心をも
廻り道をして 通りすぎて行く

感じてゐる――
それが又 忽《たちま》ち記憶ともなる
旅を行く者の心だ

外套《マント》に 風をはらませて
ごらん
枯草の丘を 一散《いつさん》に
今し くだり初めた

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