2005-05-01から1ヶ月間の記事一覧

5月の更新

感人の詩を追加 えんとつ 一つの風景 無題 ひと針 違い 虚ろ 山の心 山について つれづれ 手を重ねて ヒゲのある菩薩 金曜コンサートで一息 ヒゲのある菩薩 ちいちゃんのかげおくり 盆栽村に出かける 無間地獄:那須塩原 短編 都会の悲しさ 八木重吉の紹介・…

手を重ねて

今日の日重ねる没稿の、紙もファイルに重なりて、憂うことなく沈みゆく。また新たな没稿の詩がファイルへと加わることとなった。少し前に朝をテーマに書いた詩を応募していたのだが、佳作にも該当せずさようならと終わった。自分が情けない限りである。応募…

えんとつ

ゆめの かすむ そらに ぶどう ぐもは うかぶ いま 世界は 一粒の房 ふるう なみの おとに あさひ てりて かえり はまに うまる えだも ほおに うたを はこぶ さめた ときの なかに あさの ぶどう ジュース かれた むねに みちる せんの しろき ノート はいを…

お前と わたし と すなわち 山と 空と 路と 電柱と そして わたし と ぬくい 秋の日に対《むか》い合っている しずかな 山 しずかな わたし 上に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

死は おそろしく 死は なつかしげなる 初恋の ひとの 乳房に 似るか 上に戻る

夢に みし 空の 青かりき 山の土と 草の うれしく ありき 上に戻る

白い哄笑

一九二三年(大正一二年)編

妻は陽二を抱いて 私は桃子の手をひっぱって外へ出た だれも見ていない森はずれの日だまりへきて みんなして踊ってあそんだ 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)ルビは《》で示した。

巨きな 赤ん坊が どこかに向うをむいて坐っている まるで大仏のようなひろい背中だ その肩のあたりとお臀《しり》のあたりの むっちり持ちあがった工合にわくわくとさせられる

冬の裾にだけみえるうすい雲は けぶりにようなものを吐いている あれは少しもわざとらしいところが無い 極くあたりまえな風をしていながら 死ぬことなんか なんとも思っていないその様子につよく惹かれる

夜の踊

ふとした拍子に なにもかも 投げだした気持ちになれることがある うっすらとした 目先きだけの考えになるが 人に話してもわからぬほど 力強いものがはりきってくる さっきも そんな気持ちになって 桃子が眼をほそくしたり ひょろひょろしたりして踊っている…

冬は ことに夜になると凄い けれど その気持ちのまんなかに きっと明るいものが小さくともっている

御馳走

皆んなと一所に 御馳走によばれた まぐろの刺身やなんか綺麗にならんでいる でも ぬっと鼻ばしらのあたりへ 棒のような寂しいものがあるのをどうしりゃあいいんだろう

洗礼

水から上ったとき イエスの頭のとこが あかるくなり 鳩のようなものが 見えた そして だしぬけに音がしたとおもったら これは 神の子である これはじぶんのよろこぶ者であるときこえた

あの 夕ぐれの雲は 国の父が妙な手つきでならべたようだ

私が三月も入院して 死ぬかと言われたのに 癒《なお》って国へ俥《くるま》で帰りつく日 父は凱旋将軍のように俥のわきへついて歩るいていた 黒い腿《もも》引きをけつっきりひんまくって あの父をおもうとたまらなくなる

基督

神はどこにいるのか 基督がしっている 人間はどうして救われるのか 全力をつくしても人間は救われはしない 基督をいま生きていると信じることだ 基督に自分の罪を悔ゆることだ

天にいますわれ達の父よ あなたをおもうことをいつも最後のねがいとなしたまえ 子がそのほしき赤いリボンにすべてのおもいを帰するごとく 私のあらゆる慾のかえりゆく家を父の顔とならせたまえ

真理

真理によって基督を解くのではない 基督によって 真理の何であるかを知るのだ

死んでしまえば何んにもならない たとえ生きていたにしろ 此の世につくものに本当のちからはない 何にもかもわすれてしまい 人をうらやまず人を恨まず 天を仰いで恥かしくなくしていたい

生活と詩

神は愛である 生活は詩である 愛は神ではない 詩は生活ではない しかも愛は神でありたい 詩は生活でありたい

赤い花

赤い花をもって 子供が基督のそばにいる そして話をしている

太陽

きょうあたりの こんな冬の太陽の気持ちがほしい すこしも無理な力をいれずに それでいて 人を思うとおりに動かす 人はそれで満足している

風邪

風邪を引いて寝ていたら 妻が障子をあけて出ていった そこから冬空がまっ青にみえた

天国

天国は どこをたち切っても力がみなぎっている 表裏はなく それでいて千差万別だ いのちが流れているので 自分だけとどまって腐っていれない 天国の一時間は 人間界の一生よりももっとうつくしくもっと張合がある そこには天使があるいている 人間界にいると…

赤い花

一九二六年(昭和元年)二月七日編目次 天国 風邪 太陽 赤い花 生活と詩 願 真理 祈 基督 父 父 洗礼 御馳走 冬 夜の踊 冬 冬 冬

うつむいていたら うえのほうで 瞳がひらいてぬれているようなきがした 目次に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

けむり

こころがとざして耐えられぬ日 なにをみてもむねがあかるまぬ日 焚き火のけむりをみていたらば かあるまぬままに とざしたままに からだがしずまってきた 目次に戻る

樫の木

樫の木を切って 切り口をつるつるにしてもっていた 日の丸の旗のような木目《もくめ》がうれしくて ときどき懐《ふとこ》ろからだしてみたり そっとかいでみたりした 目次に戻る

日くれ

日がくれると 家の中が かやかやかやかやなってるようなきがする くらやみの方で音がことりとしたり おっ母さんのこえがときどきしたりするけれど あとは妙にたよりなげで あんまりしいんとしているので かやかやかやかやなってるようだ 目次に戻る