2005-05-01から1ヶ月間の記事一覧

切ること

こどものころは ものを切ることがおもしろい あのじぶんはよく ひかげにすわって 竹をきりこまざいていた 目次に戻る

桃子

つかれて帰えってきたらば 家のほうからひらひら桃子がとんできた 赤いきものを着て 両手をうんとひろげながらそっくりかえって ぶつぶつぶつぶつ独りっこといいながらやってきた わたしのむねへ もも子がころころ赤くうつるようなきがした 目次に戻る

よい日

一九二五年(大正一四年)九月二六日編 目次 桃子 切ること 日くれ 樫の木 けむり 瞳 このごろは詩か手紙のほかはほとんど何も書かない。詩のことばがしずかな空をたえまなくながれてくるようなきがする。よい秋にであったものだとおもう。自分はあくまでも…

俺はいま 酒を飲んで来た 俺は 今 切手帖《きってちょう》が 二十九枚はがれて たった一枚―― 残っているような気がする 俺は寝よう! 上に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

○ 一九二一年(大正一〇年)作

煙突に 雀が 這入《はい》った 煙の 出ぬ 午後二時の煙突―― いくら待っても 雀は 出てこなかった 上に戻る

○ 一九二一年(大正一〇年)作

陽《ひ》は 傷《きずつ》いて 流れる 青桐の 葉が痛痛しげに 喘《あえ》ぐ―― 暮れてゆく 港に 浦鳴る 笛 上に戻る

○ 一九二一年(大正一〇年)作

雲が 湧く 日 白い 雲を みる 吐息して またも みれば 白い 雲が ながれる 上に戻る

感触は水に似る

一九二三年(大正一二年)編

斜面というものは うれしかったり かなしかったりする 目次に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

もくもくしたはるの日だ ひろい 原っぱのすえを 白木のそ塔婆をかついで きたない あかんぼをしょった女がゆく おこったようにはやくゆく 目次に戻る

すこし ゆうぐれ らっきょうばたけは しずかな 湖のようだ 目次に戻る

ずいぶん ひろいのはらだ いっぽんのみちを むしょうにあるいてゆくと こころが うつくしくなって ひとりことをいうのがうれしくなる 目次に戻る

ああちゃん! むやみと はらっぱをあるきながら ああちゃん と よんでみた こいびとの名でもない ははの名でもない だれのでもない 目次に戻る

ゆうぐれの陽のなかを 三人の児が ななめの畑をのぼってゆく みていれば なきたい 目次に戻る

ないたとてだめだ いきどおったとてだめだ 死よ 死よ ほんとうにしずかなものは 死ばかりである 目次に戻る

ちさい野よ わたしの ぜつぼうをいるるには あまりにちさい野よ 目次に戻る

桃子は おちいたぱ! おちいたぱ! そういって お月さんにむちゅうだ ほんとうにうれしそうだ ほんとうにうれしいのだろうか もしそうなら わたしは どんなものもなげだして 桃子の眸《め》がほしい 目次に戻る

さがしたってないんだ じぶんが ぐうっと熱がたかまってゆくほかはない じぶんのからだをもやして あたりをあかるくするほかはない 目次に戻る

妻よ わらいこけている日でも わたしの泪をかんじてくれ いきどおっている日でも わたしのあたたかみをかんじてくれ 目次に戻る

暗い心

ものを考えると くらいこころに 夢のようなものがとぼり 花のようなものがとぼり かんがえのすえは輝いてしまう 目次に戻る

ちいさい むしの羽おとなのか しめりあがりの 土のかわくせいか はらっぱにいると ちい ちいという 目次に戻る

原っぱ

へびなんか おっかないから くさはらへは はいりこまなかった ただ ひろく みわたしていた 目次に戻る

とかす力だ それがすべてだ 目次に戻る

さて あかんぼは なぜに あん あん あん あん なくんだろうか ほんとに うるせいよ あん あん あん あん あん あん あん あん うるさか ないよ うるさか ないよ よんでるんだよ かみさまをよんでるんだよ みんなもよびな あんなに しつっこくよびな 目次に戻…

断章

天に 神さまがおいでなさるとかんがえた むかしのひとはえらい 目次に戻る

金魚

桃子は 金魚のことを 「ちんとん」という ほんものの金魚より もっと金魚らしくいう 目次に戻る

ひとつの気持をもっていて 暖くなったので 梅の花がさいた その気持ちがそのままよい香いにもなるのだろう 目次に戻る

マグダラのマリア

マリアはひざまずいて 私ほど悪るい女はないとおもった キリストと呼ばれる人のまえへきたとき 死体のように身体をなげだした すると不思議にも まったく新らしいよろこびがマリアをおののかせた マリアはたちまち長い髪をほどき 尊い香料の瓶の口をくだいて…

子供の眼

桃子の眼はすんで まっすぐにものを視る 羨《うらやま》しくってしかたが無い 目次に戻る

草をふみしだいてゆくと 秋がそっとてのひらをひらいて わたしをてのひらへのせ その胸のあたりへかざってくださるようなきがしてくる 目次に戻る