2005-05-27から1日間の記事一覧

うつむいていたら うえのほうで 瞳がひらいてぬれているようなきがした 目次に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

けむり

こころがとざして耐えられぬ日 なにをみてもむねがあかるまぬ日 焚き火のけむりをみていたらば かあるまぬままに とざしたままに からだがしずまってきた 目次に戻る

樫の木

樫の木を切って 切り口をつるつるにしてもっていた 日の丸の旗のような木目《もくめ》がうれしくて ときどき懐《ふとこ》ろからだしてみたり そっとかいでみたりした 目次に戻る

日くれ

日がくれると 家の中が かやかやかやかやなってるようなきがする くらやみの方で音がことりとしたり おっ母さんのこえがときどきしたりするけれど あとは妙にたよりなげで あんまりしいんとしているので かやかやかやかやなってるようだ 目次に戻る

切ること

こどものころは ものを切ることがおもしろい あのじぶんはよく ひかげにすわって 竹をきりこまざいていた 目次に戻る

桃子

つかれて帰えってきたらば 家のほうからひらひら桃子がとんできた 赤いきものを着て 両手をうんとひろげながらそっくりかえって ぶつぶつぶつぶつ独りっこといいながらやってきた わたしのむねへ もも子がころころ赤くうつるようなきがした 目次に戻る

よい日

一九二五年(大正一四年)九月二六日編 目次 桃子 切ること 日くれ 樫の木 けむり 瞳 このごろは詩か手紙のほかはほとんど何も書かない。詩のことばがしずかな空をたえまなくながれてくるようなきがする。よい秋にであったものだとおもう。自分はあくまでも…