八木重吉

詩のpickup(好きな詩)

八木重吉さんの詩の中から、好きな詩を10詩選びました。 詩集「秋の瞳」から 壺のような日(壺のような日 こんな日) 詩集「貧しき信徒」から 秋(こころがたかぶつてくる) 雨の日(雨が すきか) 悲しみ(かなしみと わたしと) かなしみ(かなしみを乳…

夏みかんの香おりは たえてひさしい わたしの「幸福」を 甦らせた わたくしは むさぼりかいだ 水色の世界をゆく ゆきくれたわたしのむねが 夏みかんのかおりをうれしむ しずかにうれしむのだ 上に戻る 傍点は太字で示した。 ルビは《》で示した。 底本:「定…

こころが 死のこころをゆくとき 四月のうすら赤い若芽にさえ その若芽のかたちにもゆる 死の満潮をみるとき 私の詩は 私のこころを掴んで 崇厳な飛躍をする 上に戻る

少女には むやみに語るものじゃない 私の言葉だけで 妹の心は見ぬ人をあこがれている 私もうっかり言ったつもりじゃなかったが そんな強い痕を残すとは あらかじめ どうして気付き得たであろう? 何も告げぬのもわるいようだし と 言って 一言でも言った そ…

けらけらとわらう声が あとからついて来る 春が 蛇がするするとゆく日 わたくしがゆくと そのうしろから だれだかしらない けらけらとわらう 上に戻る

もの足らぬ日であるゆえ 庭におりたって 金鎚で土をたたいた それでもまださびしいゆえ 堅い石をたたいてみた するときなくさいにおいが 白白《しらじら》とたちのぼってくる 上に戻る

土をたたく

一九二三年(大正一二年)四月編

おもちゃ

おもちゃよ おもちゃよ たんとあれ 目次に戻る 傍点は太字でしめした。 ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

まり

なにがいいかって やっぱり 鞠はいとのまりがいい おおきくてかるいのがいい ぽこぽこしていて ぶっつからぬさきにはずむようなのがいい 目次に戻る

いいゆうやけだ じいっと みていると かすかに くもはうごいている そらがうごいているようだ 空いちめん うすくれないとみどりだ 目次に戻る

ゆうぐれ まっ青なはらっぱで 狂人《きちがい》がすわりこんで たばこをふかしていた 空気までまっさおなはらっぱだった 目次に戻る

ひるひなか ひろい庭のまんなかに からからになって しかもまるくつるつるした いっぴきの蛙がひっくりかえってた 目次に戻る

たかい たかいところからみていたい おこるどころか じぶんは とろっとろと 熔けてしずかにふるえながら なにもかも美しみたいものだ 目次に戻る

おおきな河のうえを 夜の汽車でとおる むこうのほうにも 橋があるらしく いちれつの灯がかわにうつって ひとつびとつ ながい ながいひかりになっている 目次に戻る

森へはいりこむと いまさらながら ものというものが みいんな そらをさし そらをさしているのにおどろいた 目次に戻る

いても たってもいられない はなしてもだめ ひとりぼっちでもだめ なにかに あぐんと食われてしまいそうだ 目次に戻る

柿の花が 柿の木のまわりに落ちていた ぱらぱらとちらばっていた その日は 桃子にきつくほほずりしてねむりについた 目次に戻る

きりすとを おもいたい いっぽんの木のようにおもいたい ながれのようにおもいたい 目次に戻る

だあれも 人のみてないとこで おもいきり人のためになることをしていれぬものか 目次に戻る

まりに あきたら 独楽と ゆこう こまにあきたら まりと ゆこう 目次に戻る

まりは ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ わたしも ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ 目次に戻る

いいもの みつけた あった あった まりがあった 目次に戻る

こまというものは 鞠の うえしたが とんがったんだ まりの しんるいだ すこし かんじはするどい やっぱり こまのほうが 神さまにはちかいかな 目次に戻る

ひとりでんに できたものといえば おそらく まりだろう 目次に戻る

おもちゃに むちゅうになってたら なにも かも おもちゃに みえてきたぞ おかしいことには なにも かも ちいさくみえて おもちゃばっかり 巨《おお》きい 目次に戻る

川をかんがえると きっと きもちがよくなる みるより かんがえたほうがいい いまに かんがえるように みることができてこよう そうなれば ありがたい 目次に戻る

色は なぜあるんだろうか むかし 神さまは にこにこしながら色をおぬりなされた 児どもが おもちゃの色をみるようなきもちで 目次に戻る

ひいとおよ ふうた ふうたあよ み いい ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ まりをついてると いったい 数《かず》というものが どうして できたか なぜ 数というものは あったほうがいいんだか そんなわけがらが ほんのりと わかってくる 目次に戻る

まりと あかんぼと どっちも くりくりしてる つかまえ どこも ないようだ はじめも おわりも ないようだ どっちも ぷくぷく だ 目次に戻る

ぽく ぽく ぽく ぽく まりつきをやるきもちで あのひとたちにものをいいたい 目次に戻る