2006-01-01から1ヶ月間の記事一覧

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このサイトについて 詩人の紹介及び詩の掲載を行っています。 詩人の名前から詩を探す場合は、左<メニュー>「詩の紹介」から、詩のタイトルから探す場合は、右<日記の検索(一覧)>をご活用下さい。(詳細) 1月の更新 感人の詩を追加 雪の上の足跡 意…

後より来る者におくる

子ども等よ いまは頭も白髪《しらが》となり 骨が皮をかぶったやうな体躯《からだ》を 漸く杖でささえて 消えかかつた火のやうに生きてゐるお前達のお爺さんを見な あれでも昔は若くつて大胆で 君等のお父さん達が いま鍬鎌を振りまはして田圃や畠でたたかつ…

薄暮の祈り

此のすわり 此の静かさよ 而もどつしりとした重みをもつて林檎はまつかだ まつかなりんご りんごをぢつとみてゐると ほんとに呼吸をしてゐるやうだ ねむれ ねむれ やせおとろへてはゐるけれど 此の掌《て》の上でよくねむれ 此のおもみ 此の力のかたまり う…

家族

わたしの家は庭一ぱいの雑草だ わたしは雑草を愛してゐる まるで草つぱらにあるやうなわたしの家にも冬が来た 鋼鉄《はがね》のやうな日射の中で いのちの短いこほろぎがせはしさうにないてゐた わたしらはそのこほろぎと一しよに生きてゐるのだ 日一日と大…

歩行

天上で まづ太陽がそれをみてゐる 草木がみてゐる 蝶蝶やとんぼがみてゐる わんわんがみてゐる あかんぼがよたよたと歩いてゐるのを ここは路側《みちばた》である そのあかんぼからすこしへだたつて 手を拍つてよんでゐるのは母である かうしてあゆみをおし…

自分はいまこそ言はう

なんであんなにいそぐのだらう どこまでゆかうとするのだらう どこで此の道がつきるのだらう 此の生の一本みちがどこかでつきたら 人間はそこでどうなるだらう おお此の道はどこまでも人間とともにつきないのではないか 谷間をながれる泉のやうに 自分はいま…

友におくる詩

何も言ふことはありません よく生きなさい つよく つよく そして働くことです 石工《いしや》が石を割るやうに 左官が壁をぬるやうに それでいい 手や足をうごかしなさい しつかりと働きなさい それが人間の美しさです 仕事はあなたにあなたの欲する一切《す…

疾風の詩

あらゆるものをけちらし あらゆるものに吼えかかる疾風 街上をまつしぐらに 疾風はまるで密集せる狼のやうだ そしてあばれてきて郵便局のぐらすの大扉につきあたり けれどすばやく くるりとひきかへし 右に折れ 停車場の方をめがけて走つて行つた そのあとの…

風景

何がなくてもいい これだけでいい ポプラ一本 くつきりとたかくたかく 天《そら》をめがけてつつ立つたポプラ 大風の日のポプラ ほえろ ほえろ なんといふ力強さを人間にみせてゐることか ああ空高く まるできちがひの自分だ 目次に戻る

あかんぼ

暴風《あらし》はさつた あらし あらし あばれくるつて過ぎさつた そしてそのあとに可愛いいあかんぼを残して わすれていつたのか あかんぼはすやすやと寝床《ねどこ》の上 そのそばにぐつたりとつかれてその母もねてゐる 何といふ麗かな朝だらう わたしは愛…

生みのくるしみの頒栄

くるしいか くるしからう いまこそ どんなに此のくるしみがしのべるか おんみは人間の聖母 じつとこらへろ 人間の強さを見せて! くるしいか くるしめ 此のくるしみの間より出で来るもの 否、此のくるしみの間にあつて 此の人間のくるしみより生みだせ 新し…

朝あけ

朝だ 朝霧の中の畑だ 蜀黍《とうもろこし》とかぼちや、豆、芋 ――そして わたしは神を信ずる── まだ誰も通らないのか 此の畑なかの径《こみち》を わたしの顔にひつかかり ひつかかる蜘蛛の巣 その巣をうつくしく飾る朝霧 此のさはやかさはどうだ ――いまこそ…

苦悩者

何をしてきた 何をしてきたかと自分を責める 自分を嘲ける此の自分へ そして誰も知らないとおもふのか 自分はみんな知つてゐる すつかりわかりきつてゐる わたしをご覧 ああおそろしい いけない いけない 私に触つてはいけない 私はけがれてゐる 私はいま地…

驟雨の詩

何だらう あれは さあさあと 竹やぶのあの音 雨だ 雨だ おやもうやつてきた ぽつぽつと大粒で ああいい ひさしぶりで びつしより濡れる草木《くさき》だ びつしよりぬれろ 目次に戻る

老漁夫の詩

人間をみた それを自分は此のとしよつた一人の漁夫にみた 漁夫は渚につつ立つてゐる 漁夫は海を愛してゐる そして此のとしになるまで どんなに海をながめたか 漁夫は海を愛してゐる いまも此の生きてゐる海を…… ぢつと目を据ゑ 海をながめてつつ立つた一人の…

労働者の詩

ひさしぶりで雨がやんだ 雨あがりの空地にでて木を鋸《ひ》きながらうたひだした わかい木挽はいい声を張りあげてほれぼれとうたひだした 何といふいい声なんだ あたり一めんにひつそりと その声に何もかもききほれてゐるやうだ その声からだんだん世界は明…

感謝

なんといふはやいことだ たつたいまおきたばかりのところヘ ステーシヨンから箱が一つ どつさりととどいた その箱は遠くからいくつもいくつも隧道《とんねる》をくぐつてきたのだ 黄金《こがね》色した大きな穀物畠を横断し 威勢のいい急行列車に載せられて…

消息

はつなつの木木の梢をわたる風だ 穀物畠の畝からぬけでてきた風だ わたしらの屋根の上を それはまるで遠くできく海の音のやうだ その下にわたしらはすんでゐる 魚類のやうにむつまじくくらしてゐる 風はしめやかだ たかいあの青空をわたる風だから 時時すう…

自分達の仕事

自分達の仕事 それは一つの巣をつくるやうなものだ 此の空中にたかく どんな強風にも落ちないやうな巣をつくれ そして大地にふかぶかと根ざした木木 その木の梢のてつぺんで 卵を孵へさうとしてゐる鳥は いまああしてせはしく働いてゐる 毎日毎日 朝から夕ま…

一日のはじめに於て

みろ 太陽はいま世界のはてから上るところだ 此の朝霧の街と家家 此の朝あけの鋭い光線 まづ木木の梢のてつぺんからして 新鮮な意識をあたへる みづみづしい空よ からすがなき すずめがなき ひとびとはかつきりと目ざめ おきいで そして言ふ お早う お早うと…

わたしたちの小さな畑のこと

すこし強い雨でもふりだすと 雀らにかくしてかけた土の下から 種子《たね》はすぐにもとびだしさうであつた 私達はそれをどんなに心配したか そしてその種子をどんなに愛してゐたことか それがいつのまにやら 地面の中でしつかりと根をはり 青空をめがけて可…

人間苦

何方をむいてみても ひどく人間はくるしんでゐる ああ人間ばかりは 人間ばかりか 人間なればこそ自分もこんなにくるしんでゐるのだ すばらしい都会の大通でも 此の汎いあをあをとした穀物畠ででも みんな一緒だ だれもかれもみんなくるしんでゐるのだ けれど…

雨戸をがらり引きあけると どつとそこへ躍りこんだのは日光だ お! まぶしい 頭蓋《あたま》をがんと一つくらしつけられでもしたやうに それでわたしの目はくらみ わたしはそこに直立した おお けれど私のきつぱりした朝の目覚めを どんなに外でまつてゐたの…

麦畑

此のみどり ああ此のみどり 生命《いのち》の色! 憂鬱なむぎばたけのうつくしさ むぎばたけをみてゐると 自分にせまる人間の情慾 此の力のかたまり 人間の強い真実 これこそ深いところから 浪浪のうねりをもつて湧き上つてくる力だ そして生生《なまなま》…

雨は一粒一粒ものがたる

一日はとつぷりくれて いまはよるである 晩餐《ゆふげ》ののちをながながと足を伸ばしてねころんでゐる ながながと足を伸ばしてねころんでゐる自分に 雨は一粒一粒ものがたる 人間のかなしいことを 生けるもののくるしみを そして燕《つばめ》のきたことを …

そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる

すつきりとした蒼天 その高いところ そこの梢のてつぺんに一はの鶸《ひわ》がないてゐる 昨日まで 骨のやうにつつぱつて ぴゆぴゆ風を切つてゐた そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる それがゆふべの糠雨で すつかり梢もつやつやと 今朝《けさ》はひか…

単純な朝餐

スープと麺麭 そして僅かな野菜 何といふ単純な朝餐《あさげ》であらう 朝も朝 此の新しい一日のはじめ スープのにほひ ぱんのにほひ その上に蒼天のにほひ 一家三人 何といふ美しい朝餐であらう 屋根から雀もおりて来よ 此の食卓はまづしいけれど みろ 此の…

貧者の詩

みよ、そのぼろを 此のうつくしい冬の飾りを それから赤い鼻尖を 人間が意志的になると 霜はまつ白だ 指のちぎれさうな此の何ともいへないいみじさ ふゆを愛せよ そのぼろの其処此処から 肉体が世界をのぞいてゐる 目次に戻る