人間苦

何方をむいてみても
ひどく人間はくるしんでゐる
ああ人間ばかりは
人間ばかりか
人間なればこそ自分もこんなにくるしんでゐるのだ
すばらしい都会の大通でも
此の汎いあをあをとした穀物畠ででも
みんな一緒だ
だれもかれもみんなくるしんでゐるのだ
けれどみんなのくるしみをみると
自分はいよいよくるしくなる
みんなといつしよにくるしむのだ
みんなといつしよにくるしむとは言へ
自分等はひとりびとりだ
ひとりを尊べ!
何と言つてもくるしむのだ
自分はひとりでくるしまう
みんなのかはりにくるしまう
一切のくるしみをみな此の肩にのせかけろ 人人よ
そして身も軽軽と自由であれ
空の鳥のやうであれ
万人を一人で
自分はみんなの幸福のために生きよう
自分はみんなのくるしみに生きよう
かうおもつてみあげた大空
此の滴るやうな深い碧《あを》さ
此のすばらしさ
自分はかくも言ひ知れぬ鋭さにおいて感ずる
人間の激しい意志を
いまこそ強い大地の力を

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