2006-02-09から1日間の記事一覧

断章23

打て! それは自分を強くするばかりだ 目次に戻る

断章22

わしは愛されるのはくるしい わしは愛される資格がないからだ わしは何かしら 此の天地の間にふさがるやうな大きな愛を感じてゐる それでもうわしの胸は一ぱいだ わしを愛するかはりに人を愛してくれ わしは此の胸の中のものを吐きださう吐きださうと 苦しみ…

断章21

一本の樹のそばをとほりすぎただけで それをみることによつて 自分は自分を幸福にすることを知つてゐる * 人と話をしただけで 自分はその人を愛してゐるといふおもひによつて どうして幸福を感じないでゐられようか * 実際、すつかり途方にくれてしまつた…

断章20

畔道でぱつたりあつたよぼよぼのとしよりの これは涎のやうなたちばなしの そのわかれの言葉だ 「一日も余計に生きつさせえよ」 目次に戻る

断章19

おゝ人間 汝、小さいぞ 神に妬まれるやうな仕事は! 目次に戻る

断章18

竹やぶの椿は火のやうに真赤だ 神よ 自分はなんと祈らう この烈風の中で この烈風の中で 目次に戻る

断章17

草木をわたる秋風と わたりどりの翼の陰影《かげ》と わたしの溜息 そしてもろこしばたけでは もろこしが穂首を低く垂れてゐる その穂首からは 黄金色の大粒な日光の なみだのやうなしづくが ぽたりぽたりと地に落ちてゐる ほたりぽたりと…… 目次に戻る

断章16

風がふくので そよそよと揺れる草です 路傍の草はさみしい それをみるわたしもさみしい 目次に戻る

断章15

泣け、なけ 大声をはりあげてなけ それだけか もつと泣け なきぬけ ふるだけふれば からりとはれるそらのやうに 自分はそこににこにこする顔を見る 目次に戻る

断章14

怒つた顔のうつくしさ! かれは蛇を帯にしめてゐる 目次に戻る

断章13

虱《しらみ》よ 虱よ わたしにはお前達が愛せない どうしたらいゝのか それがかなしい 愛とはなんだ 生とはなんだ それはそれとして お前達にも父母があり 妻や子があり そしてくるしみがありたのしみがあり 人間とおなじやうな生活をしてゐるのだと思ふと …

断章12

自分のそれで釘付けられる その十宇架を愛せよ 目次に戻る

断章11

世界はまつたく われわれのために つくられたものではなかつた おゝ、豚よ 目次に戻る

断章10

蠅 蠅 さみしいときの善い友だち 目次に戻る

断章9

神が人間をつくつたか 人間が神をつくつたか それはどうでもいい 神は人間にとつてなくてならぬものだ それだからあるんだ 目次に戻る

断章8

おゝ神様 此の目をあけてください そしたらあなたが見えるでせう みえるやうにあけてください 目次に戻る

断章7

いのちのあるもの! その厳粛なうつくしさみにくさ 目次に戻る

断章6

人間が悪魔なんだ 人間が神になるんだ ──自分のやうに人間はそれを造つた 目次に戻る

断章5

愛にもえて おそろしい獣になるとき 光りかゞやく そして神となる人間 目次に戻る

断章4

おまへは世の中へでてもつと世間をみて来なければならない 世の中でおまへのしなければならない仕事は沢山ある 小鳥を森へかへすのだ 目次に戻る

断章3

おゝ、内なるもの 脈打つ意志よ 汝 永遠の生よ 目次に戻る

断章2

友よ 断間なくふりかかるくるしみの中でも 重い大きなくるしみが きずつけられた野獣のやうに おゝ、生きた力をよびおこすのだ くるしみは大きくあれ そこからでてくるものこそ立派な仕事だ 目次に戻る

断章1

どんなにくるしくつても生きねばならない よしこの大地を舐めずつてなりと 生きるものは生きる 否、くるしめばくるしむほど より強くかつりつぱに生きる くるしむものは生きる くるしむものばかりが生きる 目次に戻る

ある時

都会の雑音がきこえる 都会の雑音はまるで海のやうだ そこにわたしたちの小さな巣もある その巣でしきりにわたしをよんでゐるだらう とうちやん とうちやん 雑音にまじるその声 鴉や雀をみんなねぐらにかへらせて そして日はとつぷりくれた とつぷりと日が暮…

ある時

友はいま遠い北海道からかへつたばかり ながながと旅のつかれにねころんだ畳の上で まだ新らしい印象をかたりはじめた うまれてはじめて乗つた大きな汽船のこと それで蒼々した海峡を 名高い波に揺られながら横断したこと 異国的な港々の繁華なこと 薄倖詩人…

ある時

こんなに海が荒れてゐるので どうして魚がとれるもんか 魚なんど釣るどころか ぶじだつたのがめつけもんだ それでも海はかへりがけに 晩にはこれで一ぱい飲めと 鰈《かれい》一枚くれてよこした 目次に戻る

ある時

じめじめと 雨がふるふる 雨がふる 蜘蛛がかるわざしてござる あめがふるので つれづれなので ひとりかるわざしてござる 宙でかるわざしてござる 秘術つくしてしてござる あれ つつつつと針金わたり つるり ぶらりと ぶらさがり あれ、あれ おもしろい首括り…

ある時

おまへはびんぼうだな さうだ おまへは金持になりたくないか なりたくない おまへはつまらない人間だな さうだ どうだ、王様にしてやらうか まあお断りしよう なんといつても わたしの尻尾がつかめないので 悪魔はかへつてしまひました 目次に戻る

ある時

そらが 屋根の上で まあ、こんなにたかくなつた そしてみがきでもかけられたやうになつた じいつとみてゐると そのそらに 畑や市街がうつつてゐるやうだ 草の葉のそよいでゐるのもみえるやうだ 自分の顔もどこかにうつゝてゐやしないか おうい、雲よ 自分は…

ある時

一ぴきの 麦藁とんぼをおつかけてきて ちらとみつけたたうもろこし とんぼつり とんぼつり おまへのかほは耳つ朶まで そめたやうにあかいな たうもろこしにほれたんだろ 目次に戻る