後より来る者におくる

子ども等よ
いまは頭も白髪《しらが》となり
骨が皮をかぶったやうな体躯《からだ》を
漸く杖でささえて
消えかかつた火のやうに生きてゐるお前達のお爺さんを見な
あれでも昔は若くつて大胆で
君等のお父さん達が
いま鍬鎌を振りまはして田圃や畠でたたかつてゐるやうに
弓矢銃丸《やだま》の間をくぐりむぐつて
いさましいはたらきをしたもんだ
子ども等よ
鉄のやうに頑丈であれ
やがて君達のお父さんがお爺さんのやうになる時
其時、君等はお父さんのやうな大人《おとな》になるのだ
此の時代と世界とを
そして立派にうけ継ぐのだ
その君達のことを思へば
此の胸はうれしさで一ぱいになるぞ
おお勇敢な小獅子よ
お爺さんよりお父さんより
君等はもつとどんなに強くなることか
こつちをみろ

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自分の此詩集が日光の中に出るやうになつたのは親友早坂掬紫、平井邦二郎、前田夕暮等の友情によつてであることを大なる感謝をもつてここに記しておく。更にこれらの名の中に自分の妻ふじ子の名をもかき加へなければならない。

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傍点は太字で示した。
ルビは《》で示した。
旧漢字の一部を新字体になおした。
ルビは底本のもの以外に必要に応じて追加した。
底本:「山村暮鳥全集第一巻」筑摩書房(平成元年6月)
初出:「風は草木にささやいた」白日社(大正7年11月)