2005-05-25から1日間の記事一覧

斜面というものは うれしかったり かなしかったりする 目次に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

もくもくしたはるの日だ ひろい 原っぱのすえを 白木のそ塔婆をかついで きたない あかんぼをしょった女がゆく おこったようにはやくゆく 目次に戻る

すこし ゆうぐれ らっきょうばたけは しずかな 湖のようだ 目次に戻る

ずいぶん ひろいのはらだ いっぽんのみちを むしょうにあるいてゆくと こころが うつくしくなって ひとりことをいうのがうれしくなる 目次に戻る

ああちゃん! むやみと はらっぱをあるきながら ああちゃん と よんでみた こいびとの名でもない ははの名でもない だれのでもない 目次に戻る

ゆうぐれの陽のなかを 三人の児が ななめの畑をのぼってゆく みていれば なきたい 目次に戻る

ないたとてだめだ いきどおったとてだめだ 死よ 死よ ほんとうにしずかなものは 死ばかりである 目次に戻る

ちさい野よ わたしの ぜつぼうをいるるには あまりにちさい野よ 目次に戻る

桃子は おちいたぱ! おちいたぱ! そういって お月さんにむちゅうだ ほんとうにうれしそうだ ほんとうにうれしいのだろうか もしそうなら わたしは どんなものもなげだして 桃子の眸《め》がほしい 目次に戻る

さがしたってないんだ じぶんが ぐうっと熱がたかまってゆくほかはない じぶんのからだをもやして あたりをあかるくするほかはない 目次に戻る

妻よ わらいこけている日でも わたしの泪をかんじてくれ いきどおっている日でも わたしのあたたかみをかんじてくれ 目次に戻る

暗い心

ものを考えると くらいこころに 夢のようなものがとぼり 花のようなものがとぼり かんがえのすえは輝いてしまう 目次に戻る

ちいさい むしの羽おとなのか しめりあがりの 土のかわくせいか はらっぱにいると ちい ちいという 目次に戻る

原っぱ

へびなんか おっかないから くさはらへは はいりこまなかった ただ ひろく みわたしていた 目次に戻る

とかす力だ それがすべてだ 目次に戻る

さて あかんぼは なぜに あん あん あん あん なくんだろうか ほんとに うるせいよ あん あん あん あん あん あん あん あん うるさか ないよ うるさか ないよ よんでるんだよ かみさまをよんでるんだよ みんなもよびな あんなに しつっこくよびな 目次に戻…

断章

天に 神さまがおいでなさるとかんがえた むかしのひとはえらい 目次に戻る

金魚

桃子は 金魚のことを 「ちんとん」という ほんものの金魚より もっと金魚らしくいう 目次に戻る

ひとつの気持をもっていて 暖くなったので 梅の花がさいた その気持ちがそのままよい香いにもなるのだろう 目次に戻る

マグダラのマリア

マリアはひざまずいて 私ほど悪るい女はないとおもった キリストと呼ばれる人のまえへきたとき 死体のように身体をなげだした すると不思議にも まったく新らしいよろこびがマリアをおののかせた マリアはたちまち長い髪をほどき 尊い香料の瓶の口をくだいて…

子供の眼

桃子の眼はすんで まっすぐにものを視る 羨《うらやま》しくってしかたが無い 目次に戻る

草をふみしだいてゆくと 秋がそっとてのひらをひらいて わたしをてのひらへのせ その胸のあたりへかざってくださるようなきがしてくる 目次に戻る

ねがい

できるだけ ものを持たないで こだわりなく 心をはたらかせたい 目次に戻る

陽二よ

なんという いたずらっ児だ 陽二 おまえは 豚のようなやつだ ときどき うっちゃりたくなる でも陽二よ お父さんはおまえのためにいつでも命をなげだすよ 目次に戻る

桃子よ

もも子よ おまえがぐずってしかたないとき わたしはおまえに げんこつをくれる だが 桃子 お父さんの命が要るときがあったら いつでもおまえにあげる 目次に戻る

妻に与う

妻よ わたしの命がいるなら わたしのいのちのためにのみおまえが生くるときがあったら 妻よわたしはだまって命をすてる 目次に戻る

初秋

うっすらと秋に酔うたここち やがて 秋はふかみ わたしは酔いしれるだろう ぐったりするくらい秋にからだをまかせよう 目次に戻る

ねがい

どこを 断ち切っても うつくしくあればいいなあ 目次に戻る

信仰

人が何と言ってもかまわぬ どの本に何と書いてあってもかまわぬ 聖書にどう書いてあってさえもかまわぬ 自分はもっと上をつかもう 信仰以外から信仰を解くまい 目次に戻る

断章

もえなければ かがやかない かがやかなければ あたりはうつくしくはない わたしが死ななければ せかいはうつくしくはない 目次に戻る