感人

シジュウカラ

あわただしく そして あわただしげに 一人の鳥は 一羽の鳥を追いかけている 一羽は 揺れている カラマツのこずえを 上がっていく 一つずつ 忘れずに 回りながら 揺られながら もう一羽は 後(あと)を追いかけていく もう一人は その姿を追いかけている けれ…

上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(4)

<(3)から| 楽器について しかし考えてみると、楽器というのは実に不思議な物です。もちろんその時々かも知れませんが、音楽は、空気や水のように自然に体の中に入ってきて、そのリズムが人の心を軽やかな気持ちに変えてくれます。 もちろん私は詩を詠み…

上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(3)

<(2)から| 旧東京音楽学校奏楽堂 古びた建物は、どこか親しさを感じさせるものです。建物入口の掲示板を見ると「日曜コンサート開演:2時・3時」との案内がありました。そこは、「旧東京音楽学校奏楽堂」という名称の施設で、かつての東京音楽学校(…

上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(2)

<(1)から| 上野の駅に降りて 人はこういう時、どういう所に出かけるのでしょうか。 私に少しのお金の余裕があれば、私は高原に出かけ、何もかもが爽やかな風に変わっていこうとする林の中を何処までも歩き、もし春であれば、私がまだ見つけた事のない山…

上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(1)

春の気配 草むらで集って声を上げているスズメ達、新鮮な大気の露を身に宿している花のつぼみ、枯色の枝からキャベツの様な葉を広げようとしているアジサイの芽ぐみ、私の心にも春の気配(けはい)が感じられるようになりました。気配(けはい)という漢字は…

お宿

沿線の芝生の上に スズメの宿があるという まるっこいお腹を ちよちよさせて 本当ですか スズメが芝生で寝ていたなんて (2006.3.10)-(3.17)

種まき

スズメが草むらをつついています いったい 何が採れるのでしょうか それとも何か 植えているのですか きっと 花畑になるでしょう (2006.3.10)-(3.17)

ハコベ

春は 花壇のはしから―― まだ咲かない 植えられた苗の脇で 5対《ごつい》の 短い花弁《はなびら》を咲かせる 私が見ていたのは 淡い壁 胸を塞いだ噴水 白い 猫が横切る 生まれたとき 何を思ったかなんて いつの日に 歩き始めたかなんて 柔らかな土の先で そ…

人々

無理に合わせなくともよいのです 地下鉄の通路で みなを通してあげなさい 私はその人々の流れを ゆうゆうと眺めているから 立ち止まって考えればよいのです あの空の下で 人はみな進み行く やがて踏みしめた道を 折り返すときが来るのだから 心とは山河大地 …

浅間の煙

あの辺りの裾野は、何という山に続いているのかしら。 あれは――雲だよ。 そう――私、ちっとも気付かなかったわ。 しかし、無理もない。あの濃くなったり薄くなったりしている辺りは、本当に緑がかって見える。 あの浅間の煙、黒斑山の辺りに、その山の頂が見…

雪の上の足跡

私が家に帰ると モックが喜ぶのです モックというのは犬で 茶色いモクモクの犬です モックについていくと 白い方にいきます 跡のついていない 深い方にいきます モックは嬉しいので 二倍の足跡をつけます 足が短いので 四倍の足跡がつきます モックが歩き出…

意識

通る人のいない 雪の落ちた日に 私は一人吠えて 鳥と話をします チチッ ワワン チチチッ ワワワン チッチッ ワンワン ナンテンの実をくわえて 赤いナンテンの実をくわえて 犬と話をします 雪の落ちた日に (2005.1.12)

立木

風が吹けば 風になれる そういう心で いつもありたい 森に居れば 森になれる そういう心で いつもありたい 海に来れば 海になれる そういう心で いつもありたい 空を見れば 空になれる そういう心で いつもありたい (2005.秋)

野辺の道

ひとつ この手の平にひとつ 花を拾おう 朽ちて枯れる葉は 桜の花の香り ひらり ひらりひとつ落ちる この一葉の葉のために 雲は 空をただよい ただよってはひとつ 葉を揺らして 唯空の中にあって 空の行方の事は 知らなかった 星は 一人思う この中にひとつ …

朝日

ホームに立っていた 空は待っていた 雲が流れていた 電車は満員だった 少時の絵筆を持って 僕の土地のことを語ろう 人も田も山も やわらかな土地の事を (2004.10.19)

空蝉

秋の空 草木に残る 空蝉に 紅葉散りつつ 我重ねつつ (2005.9.8-10.5) 長野県小諸懐古園にて

若雲達

帰っていったのだ みな どちらを向いているかと言えば 浅間へ 大きな足で 歩いていったのだ 彼らは持っている 大きな自然を 浅間のブドウはなり 詩人の跡を辿る 白樺林を越えて 夢見ていったのだ 遥か遠く 思い出しておくれ 街を離れ遠くゆく物達よ 今はまだ…

あの頃の時代

私はまた 此処に来ています 覚えていますか 僕達のことを 雪が少し残る はがね色の空の下 みんなで出かけましたよね 大沢の湯に 茅葺きの宿が見え 酒を飲んでいましたね もう最後だというのに 誰だったかしら 露天で飲みたいと言ったのは もう止まらなくて …

雪の降る夜

幾年《いくとせ》の部屋に向かいて 畳座し壁と語らう 古き書は眠りに満ちて 揃えたる主《あるじ》を知らず 諸手にて知識を積めば 漂える雨の森の香 いつの日か国に帰らん 我はまだ浮世の旅路 雪の降る夜はなつかし 時を見る闇夜の明かり 音も無く進み寄る影 …

交差点

白と黒のしましま 人の影が過ぎる ひびくは鳩の足音 首を振るバネの人形 スクランブルに過ぎさる 大人達のあこがれ ひびくはサイレンの音 うつむくは時計台の針 白い線を歩く日 雪の国の童《わらし》 黒い線を歩く日 ビルの国の子供 根を持たぬ並木道 スクラ…

幸せということ

筒のような 日 幸せという物を 空に描《えが》いてみる 浅ましい 姿であった 人づてに堅く聞いたり 欠け落ちた 寄生者と 蔑まれることのない 日々 私自身 良心と逆なるもので 人を問いつめ 強いなければならない そういうことのない 日々 石に似せ 小石を固…

立木

空が澄むと素直になれる そういう心でいつもありたい 風が吹くとさやかになれる そういう心でいつもありたい 花が咲くとやさしくなれる そういう心でいつもありたい 森に居ると豊かになれる そういう心でいつもありたい 立木となって いつもありたい (2005.9…

太郎へ

ビルの間《あいだ》に 幾万もの人達 街を歩く日 ひと足 ひと振り 人という密度が アスファルトに背を反らし 大きく手を振りかぶって ラジオ体操を踊る 太陽を手に入れた者達 大声を張り上げ 笑顔で 高らかに 今日という日を 一度に畝《うね》らす それは始ま…

寂しさ

僕はもっと 人のいない所へと行きたい 本当にさみしくて 森も葉を落す様な そんなほとりへとゆきたい 心からもやさしさが溢れ 涙の止まらぬ様な そんなほとりへと ゆきたい (2005.4)

午後の時

弓なりに反り返る ケヤキの枝の下 ベンチの縁に 頭と足を投げ出し 寝そべって上を見ていた 太陽は正午の位置にある 日はまぶしい 求める物は何か 私はあえてそれを見つめる 手を伸ばしても 遮ることは出来ない 透くことは出来ない 太陽はどういう形をしてい…

長靴

アジサイ でんでん虫 雨蛙 黄色い長靴を履きたくなった君 走り出した雨上がり雲 当たって弾ける季節 僕は長靴を持っていない 紫の傘を持って追いかける アスファルトのふたり 水たまりには影法師 雨上がり アメフラシ 水玉模様 水浸しのホース 蛇口を開く君 …

雨上がり、昼下がり、水色時

街を歩いています。 雨が落ちて来ました。 雨が落ちて来たのに、傘を持っていません。 傘を持っていない人は、雨に濡れてしまいます。 雨に濡れてしまったら、家に入れてもらえません。 家に入れてもらえないと、ご飯が食べられません。 ご飯が食べられない…

なりたい人

窓際の人がえらそうなのはなぜなのかって 山に登ってごらんよ 下草の生え替わる歌や 枯葉が土に帰るやさしさがわかるから 山を降ってごらんよ 水田が網目のように広がって 鳥が舞い上がるのが見えるから きっと 昔見えていたアリ達が見えず 自分の足音も聞こ…

かげおくり

ひとーつ 原っぱの影を見つめて ふたーつ 青い空を見上げる みっつ 山の上に白い影が映り よっつ みんなの影も一緒だった いつつ 戦争がやってきて むっつ 焼夷弾が降り注ぎ ななつ 青い空が残された やっつ 女の子を悲しませた空は ここのつ 今ではビルに覆…

消えると言うこと

僕が消えてなくなると言うこと 死に近い桜が、悲しい花びらを託す ただよってもみよ うらぶれてもみよと 華々しく散るなど、人には嘘だ 心の端、枝の切れ端より 地上へと帰り ヒラビラと揺らめき 一つの花を、焼けこげた色へと帰す 消えると言うこと、帰ると…