上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(3)

奏楽堂舞台


(2)から

東京音楽学校奏楽堂

古びた建物は、どこか親しさを感じさせるものです。建物入口の掲示板を見ると「日曜コンサート開演:2時・3時」との案内がありました。そこは、「旧東京音楽学校奏楽堂」という名称の施設で、かつての東京音楽学校(現東京芸術大学)の本館の建物でした。
私はリュックを降ろして、その中から時計を取りだすと、時間はちょうど3時を3分ほど回ったところです。私はそのまま掲示板の前で、少し何かを思いやりましたが、その考えは方向を持たないままに終わり、私はそのまま中へと入りました。
建物の中の廊下には、赤い絨毯が敷かれ、2階の奏楽堂へと続いています。私はその廊下を一歩ずつ力を留めて上り、そして同じように遅れて入ってきた人の後に付いて部屋に入りました。

三人の演奏

中央の舞台では、3人がそれぞれチェンバロ、リコーダー、チェロを演奏していました。三人とも若い方で、東京芸術大学の学生さんが演奏しているとのことでした。
演奏会場である奏楽堂は明治23年に出来たもので、今の私達からすると演奏会場というには随分小さく感じます。その演奏の舞台はどこか、小学校の学芸会を思わせるこじんまりとした雰囲気があり、最もそれは私の小学校時代の記憶からくるものかも知れませんが、今日の演奏で使われない奥のパイプオルガンなど、まるで板にペンキを塗った舞台セットの様にさえ思われました。(私に教養が足りないところからきている印象なので、気を悪くされませんように)
今日の演奏では、チェンバロという楽器が中心となっており、私はこの楽器の音を聞くのは初めてでしたが、金属をたたいたような甲高い音の楽器で、ピアノの様な形をしていました。
私は以前に二度ほどクラシックのコンサートに行きましたが、私のような教養の薄い人間には、多くの楽器で演奏されてしまうと、それぞれの楽器がどのような音を出しているのか分からないのものです。
それに比較するとこのコンサートは、それぞれ音の特徴が分かれた楽器で構成されており、また三種類だと私にも音を判別してその流れの一つ一つを追うことが出来ます。
その中で一番驚いたのは、リコーダーの音の豊かさであって、中学の時のリコーダーの音しか知らない私には、今日の演奏に使われているリコーダーは種類そのものも違うのでしょうが、とてもやわらかく伸びのある音色が聞こえてくるのです。
会場もこじんまりとしており堅くるしくなく、小さい子供連れの家族の姿も見られました。舞台が近いので、奏者が演奏に合わせて韻をふんでいるのも感じることが出来ます。
古びている会場が与える柔らかな効果もあるのでしょうが、三人の演奏者に向けられた明かりは、小さな国外れの湖の畔で、若者達が淡い月の光に合わせて自由に互いの心を示し合わせているような印象を、私はその舞台の中に見ていました。
そしてその一曲が終わると、今度はギターの方が加わって四人で新しい曲が始めり、コンサートはわずか30分程のものでしたが、終わるころにはすっかり、私の心は安らいだ気持ちなっていました。

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