上野散歩〜旧東京音楽学校奏楽堂〜(2)

旧東京音楽学校奏楽堂


(1)から

上野の駅に降りて

人はこういう時、どういう所に出かけるのでしょうか。
私に少しのお金の余裕があれば、私は高原に出かけ、何もかもが爽やかな風に変わっていこうとする林の中を何処までも歩き、もし春であれば、私がまだ見つけた事のない山野草の道を求めて探しに行くのですが、そのように都合良くお金が工面できるものではありません。
だから私は行くあてがないと、人の数に対して幾らか緑が優勢なこの公園に来て、緑の木々で囲われた間の土の道をおもむろに歩き、美術館や博物館のその時々の展示が何か私の心を引きつけるのではないかとぼんやり進むのです。
そしてそういった絵画や彫刻というものが、私の心を引きつけて今の感情を変えてくれることはあります。しかし、絵を描く才能も技量も知識もない私にとって、苛立っているときの芸術の殆どは、ただ漠然と過ぎ去っていくものでしかありませんでした。

クスノキの間を歩く

私はクスノキの枝が覆い被さる林の中を歩き、時々何か出し物を広げている人の群れを遠く眺めました。使い古したクリップの様に、訳もなく太い幹に沿って方向を変えてみたり、その木に手をやって来た道を折り返してみたり、私はその時々の根の広がるままに歩いていました。昼過ぎになっても、動物園はどんどん人を吸い込んでいきます。
私はそうして、ただ虚ろに歩いているうちに、その周辺ではまだ見かけたことのない、西洋風の木造の建物の前に出ました。私はこの辺りを何度も通り抜けたと思いますが、その建物が何の施設であるかと言うことに、気をやったことがありませんでした。その建物はそれほどまでに古く、褪せた外観を持ち、何かを行っているという施設には見えなかったからかも知れません。

(3)へ