幸せということ

筒のような 日
幸せという物を 空に描《えが》いてみる

浅ましい 姿であった
人づてに堅く聞いたり
欠け落ちた 寄生者と
蔑まれることのない 日々
私自身
良心と逆なるもので
人を問いつめ
強いなければならない
そういうことのない  日々

石に似せ 小石を固め
造った墓のような街を歩き
あきらめ続けるような
さざれた石の街を
自然体で偽り
造られた形でいることに
多くを吸い込まれる
そういうことのない  日々

それはユリノキの下 山の麓の高原
一人風と風の間に座り
流れる雲に 揺れる瞼《まぶた》
草原を見る 草原を見ている
不思議が
黄色い花から飛び跳ね
乗り込んできた テントウムシ
私の腕に
そのままいるような
キャンバスの景色に 眠っている
そう思える  日々

もう動かなくて良い
私に
世界から与えられ
タンポポの綿毛が
初めから いたような
もう動かなくて良い
根を絡ませた 岩の上
岩もまた
共にいる者を得られた
生まれたのだ
そう思える  日々

しかし 意識を
とかし
この身を 崩し
死んでいる意識
そういう幸せが あるような
描いた空ということは
宇宙に 生《は》えた星の心
空の負荷に
身もだえする昨日
身を やつし 待ち続ける明日が
私の 私のユリノキの葉を 蝕むのである

私は森 その中の一つの木
枝はトチノキのように広がり
一人 昼下がりを作る
誰もいない空に
葉を落とす 冬に
切なさを負ったまま
植物的に
誰かに虐げられるのではなく
深く息を吸う 吐く ことが
森の中での役割
そうあり続ける  日々

幸せという物 空に描(えが)いてみる
筒のような 日… 筒のような  日…

    (2005.春)