雪の降る夜

幾年《いくとせ》の部屋に向かいて
畳座し壁と語らう
古き書は眠りに満ちて
揃えたる主《あるじ》を知らず
諸手にて知識を積めば
漂える雨の森の香

いつの日か国に帰らん
我はまだ浮世の旅路

雪の降る夜はなつかし
時を見る闇夜の明かり
音も無く進み寄る影
何を問い此処に来るのか
我はまだ筆を走らす
与えしは光か影か

音をなす紙切る腕よ
我はまた一陣の風
今朝もまた街を歩みし
うらぶれた社会の塵よ
人の世に生まれし者は
何をしてこの世を去らん

悲しみを頬に流せば
穢れ行く涙のひかり
地に落ちて音さえ立てず
人込みの足へと消える
何処にも腰は下ろさず
救い無き冷たき都市よ

我はまだ浮世の旅路
いつの日か国に帰らん

 (2005.春)
私の生家、祖父の住む家にて蔵書を積む
雪の日に生まれたと言う自分を振り返る
私は街へと、何を求めて進み逝くのか