浅間の煙

あの辺りの裾野は、何という山に続いているのかしら。
あれは――雲だよ。
そう――私、ちっとも気付かなかったわ。
しかし、無理もない。あの濃くなったり薄くなったりしている辺りは、本当に緑がかって見える。
あの浅間の煙、黒斑山の辺りに、その山の頂が見えてもよさそうなものだ。

(山に、雲が隠れていった。)

雲は悲しいわね。遠くにいってしまうから。
今しかない景色とは、こんな空のことをいうのかしら。
僕も今――その様な事を考えていた。あの様に浅間の傍にいながら、その山の中に消えていってしまうなんて。
でも、私知っているわ。
いったい――何をだい。
あの雲が注ぐ水が、あの山の緑を育むと言うことを。

 (2005.11)
 晴れた風の強い日、軽井沢離山の頂上に一人いて、浅間山の変わっていく風景を見た。