夜の酒場

夜の酒場の
暗緑の壁に
穴がある。
かなしい聖母の額《がく》
額の裏《うら》に
穴がある。
ちつぽけな
黄金虫のやうな
秘密の
魔術のぼたんだ。
眼《め》をあてて
そこから覗く
遠くの異様な世界は
妙なわけだが
だれも知らない。
よしんば
酔つぱらつても
青白い妖怪の酒盃《さかづき》は、
「未知」を語らない。
夜の酒場の壁に
穴がある。

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