2006-12-01 夜の酒場 詩 萩原朔太郎 夜の酒場の 暗緑の壁に 穴がある。 かなしい聖母の額《がく》 額の裏《うら》に 穴がある。 ちつぽけな 黄金虫のやうな 秘密の 魔術のぼたんだ。 眼《め》をあてて そこから覗く 遠くの異様な世界は 妙なわけだが だれも知らない。 よしんば 酔つぱらつても 青白い妖怪の酒盃《さかづき》は、 「未知」を語らない。 夜の酒場の壁に 穴がある。 目次に戻る