2007-02-09 蒼ざめた馬 詩 萩原朔太郎 冬の曇天の 凍りついた天気の下で そんなに憂鬱な自然の中で だまつて道ばたの草を食つてる みじめな しよんぼりした 宿命の 因果の 蒼ざめた馬の影です わたしは影の方へうごいて行き 馬の影はわたしを眺めてゐるやうす。 ああはやく動いてそこを去れ わたしの生涯《らいふ》の映画幕《すくりーん》から すぐに すぐに外《ず》りさつてこんな幻像を消してしまへ 私の「意志」を信じたいのだ。馬よ! 因果の 宿命の 定法の みじめなる 絶望の凍りついた風景の乾板から 蒼ざめた影を逃走しろ。 目次に戻る