軍隊

       通行する軍隊の印象

この重量のある機械は
地面をどつしりと圧へつける
地面は強く踏みつけられ
反動し
濛濛とする埃をたてる。
この日中を通つてゐる
巨重の逞ましい機械をみよ
黝鉄の油ぎつた
ものすごい頑固な巨体だ
地面をどつしりと圧へつける
巨きな集団の動力機械だ。
 づしり、づしり、ばたり、ばたり
 ざつく、ざつく、ざつく、ざつく。

この兇逞な機械の行くところ
どこでも風景は褪色し
黄色くなり
日は空に沈鬱して
意志は重たく圧倒される。
 づしり、づしり、ばたり、ばたり
 お一、二、お一、二。

お この重圧する
おほきなまつ黒の集団
浪の押しかへしてくるやうに
重油の濁つた流れの中を
熱した銃身の列が通る
無数の疲れた顔が通る。
 ざつく、ざつく、ざつく、ざつく
 お一、二、お一、二。

暗澹とした空の下を
重たい鋼鉄の機械が通る
無数の拡大した瞳孔《ひとみ》が通る
それらの瞳孔《ひとみ》は熱にひらいて
黄色い風景の恐怖のかげに
空しく力なく彷徨する。
疲労
困憊《ぱい》し
幻惑する。
 お一、二、お一、二
 歩調取れえ!

お このおびただしい瞳孔《どうこう》
埃の低迷する道路の上に
かれらは憂鬱の日ざしをみる
ま白い幻像の市街をみる
感情の暗く幽囚された。
 づしり、づしり、づたり、づたり
 ざつく、ざつく、ざつく、ざつく。

いま日中を通行する
黝鉄の凄く油ぎつた
巨重の逞ましい機械をみよ
この兇逞な機械の踏み行くところ
どこでも風景は褪色し
空気は黄ばみ
意志は重たく圧倒される。
 づしり、づしり、づたり、づたり
 づしり、どたり、ばたり、ばたり。
 お一、二、お一、二。

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