2007-02-09 閑雅な食慾 詩 萩原朔太郎 松林の中を歩いて あかるい気分の珈琲店《かふえ》をみた。 遠く市街を離れたところで だれも訪づれてくるひとさへなく 林間の かくされた 追憶の夢の中の珈琲店《かふえ》である。 をとめは恋恋の羞をふくんで あけぼののやうに爽快な 別製の皿を運んでくる仕組 私はゆつたりとふほふくを取つて おむれつ ふらいの類を喰べた。 空には白い雲が浮んで たいそう閑雅な食慾である。 目次に戻る