2007-02-09 顔 詩 萩原朔太郎 ねぼけた桜の咲くころ 白いぼんやりした顔がうかんで 窓で見てゐる。 ふるいふるい記憶のかげで どこかの波止場で逢つたやうだが 菫の病鬱の匂ひがする 外光のきらきらする硝子窓から ああ遠く消えてしまつた 虹のやうに。 私はひとつの憂ひを知る 生涯《らいふ》のうす暗い隅を通つて ふたたび永遠にかへつて来ない。 目次に戻る