2007-02-09 沖を眺望する 詩 萩原朔太郎 ここの海岸には草も生えない なんといふさびしい海岸だ かうしてしづかに浪を見てゐると 浪の上に浪がかさなり 浪の上に白い夕方の月がうかんでくるやうだ ただひとり出でて磯馴れ松の木をながめ 空にうかべる島と船とをながめ 私はながく手足をのばして寝ころんでゐる ながく呼べどもかへらざる幸福のかげをもとめ 沖に向つて眺望する。 目次に戻る