2007-02-09 天候と思想 詩 萩原朔太郎 書生は陰気な寝台から 家畜のやうに這ひあがつた 書生は羽織をひつかけ かれの見る自然へ出かけ突進した。 自然は明るく小綺麗でせいせいとして そのうへにも匂ひがあつた 森にも 辻にも 売店にも どこにも青空がひるがへりて美麗であつた そんな軽快な天気に 美麗な自働車《かあ》が 娘等がはしり廻つた。 わたくし思ふに 思想はなほ天候のやうなものであるか 書生は書物を日向にして ながく幸福のにほひを嗅いだ。 目次に戻る