2006-01-12から1日間の記事一覧

秋の日の事実

Ⅰ 噴水 ――比喩《たとへ》は、悲し。 秋の日の、 噴水の、 やはらかに眠れる。 こしかたに 揺げるは ひめにし「幸《さち》」か、 いたまし。 玉の如く、 なやむ心の さてこそ、 脆き、その夢。 Ⅱ 所現 その眼にとめた 空は余《あまり》に悲しかろ、 そして小…

午後

いばらのはなのかなしみ…… あかいこころの、 はかなさぞ とりとめなく…… いのちのやうなはなのうろこはおち、 つちのうへに まぼろしをゑがける。 かぢやのかべはひわれて とんかんとひねもす、 まぼろしをゑがける。 それもみみなれし ふうふもの、 われと…

風景

蜩《かなかな》は、雨の如し 君が髪毛《かみげ》は 廃園の草より長く もとめし秘密のよろこびに 君とあれども安からず。 時は八月、 梢なる真昼の空、 空をながむる我が心、 いとほしや、ぬれにし眼瞼《まぶた》。 目次に戻る

風景

昼の殊更《ことさら》 さらさらと 忍びやかなる、 且《かつ》て、をんなの腕《かひな》の如《ごと》く、 雨は現在《いま》、錆びにし涙。 目次に戻る

秋の日は瑪瑙《めのう》の如《ごと》し、 空行く雁《かり》のさみしからまし わがゆめの 一列《つら》のながき思ひ出…… 目次に戻る

卓上

ひえびえとこつぷの陰影《かげ》、 薄荷草《はっかそう》は をんなの様ないきづかひに ひよろりと伸びる。 一ぱいの、七分は 夢の泡となり、 さみしさに曹達水《そうだすい》、 脆《もろ》き生命《いのち》をひきくらべつ、 粉香《にほひ》はあたりに斑の如…

廃園旨

秋草は紫苑《しをん》と芒《すすき》と…… しをらしや その他《ほか》、 ぱつたりと絶えた音楽、 美しい昼の悲哀は 梢を這《は》うて雨となり、 そこに、さみしい銅像が しよんぼり影の様に、立つ。 目次に戻る

賜物

いとしや、 肌のなめらかなる しきりに涙ながる。 わが愛欲の花は、ほの白、 つかれながらに匂ふなれ、 林檎の様な心はめざめに ほと嘆息《ためいき》す。 目次に戻る

哀惜

しきりに芳香《にほひ》の 散る昼なれど、 そは、常のこと。 女は毒草……いぢらしき放埒《ほうらつ》に おぼれて悩む、わが微睡《まどろみ》…… 小さきものは生命《いのち》なれ。 いまさらの、 過去にうく泡の如《ごと》き 夢のつながり、 軽く、その官能を花…

桔梗と蜩

にしきゑのうみのいろよりかなしきは むらさきのこきがため、 ききやうのはなは ひるのひのひかりをつつんで そとしぼむ。 かべのうへ、こころに せまるたそがれの、 なつのおもひのあわただしさよ もりのひぐらし。 目次に戻る

影のELEGIE

やはらかさよ、 ふめばくづれる砂の上、 もだす光の溺れぬる。 (美しき死をこそ、思へ) 砂の上の月見草、 ためいきを水の如《ごとく》く、 いろざめし真昼の さりとて、心よき推移。 月見草かすかに、 よりそふは悲しき影 ただ、ふたつ、 其影のながれず。…

無常の月光

ひなげしの花は悲し。 尼の如《ごと》く、 狂ほしき月の園、 おぼろに匂ふ。 ま白き肌に媚びて、知る 秘密のめざめ美しけれ、 やすらかに眠れる 淫らなるわが霊《たましい》。 ゆめの、(ひなげしの怖れよ。) くちつけなれば 軽らかにこそ。 わが霊のぬれた…

L’ETE

はれた蒼穹《そら》より ふる芳香《にほひ》、 それがぬらした 黄《きいろ》い南瓜《かぼちや》の花。 昼の、ねがいの、醜さの おもひ出ばかり、 夢は曲線《カアブ》の陰影《かげ》を引く。 (恋のむだ花……) 夏のMOODの 雨こそ銀の槍の穂。 目次に戻る

かげ

憧憬

例へば尼の、としわかく、 ともすれば心の弱く、 暮れてゆく日のよろこびに 言い難き秋の色あり、 うつくしや、頬なる涙。 目次に戻る

蟋蟀其他

* ほんにいとしや、 それやこれやも女ゆゑ 蟋蟀《こほろぎ》のかこちごち、 煩悶は玉の如し。 * 蟋蟀は 金の小さき十字架を 肌に秘めて、なく、 ゆめよりも悲し。 * 丘の上の 赤き旗は 君が髪のごとく 明日《あした》を風に委《まか》す。 * われは唯《…

木犀

木犀の花のかをりに咽《むせ》ぶ…… 秋の日のうすらさみしい光を浴びつつ、 頻《しき》りに、死をねがふ あたたかな午後の霊魂《たましい》。 涙が胸の上にぼとりぼとりと、 いつのまにか、女は記憶にしのび込み、 その音を聞いてゐたつけが もう、すやすやと…

(島崎藤村様に) 世に、いやし難きは蟋蟀のかなしみなれ、 梢をはなれて心の如《ごと》き粉香《にほひ》となり、 とこしへの、ゆめぞ肌のなめらかなる そも、錆《さ》びにしはその月の頬這ふ涙。 目次に戻る

NOCTURN

* 海の如《ごと》く 海よりも瞳は青し。 女の「幸《さち》」ぞかなしけれ、 くしきものは煙の如し わが夢の悩める。 * 夕月はわたしを泣かせ、 はつ恋は君を歌はす、 たよりなし、 凌霄花《のうぜんかづら》の蔓《つる》にかかれる その花。 * あちらこそ…

小曲

1 秋の日ざしのしづかなる とほく眼瞼《まぶた》に浮ぶもの、 うすら光のうるほひ、 うつくしき心の上に、 我は聴く 赤き蜻蛉《とんぼ》のなげきを…… 2 And-you will count before your glass, more kisses than the lily has. (Baudelaire) 悲みは凡《す…

すけつち

まひるの夢をあざける 獰悪《どうあく》な夏の韻律《リズム》 腐れる「物」の美しさから、 光をうたへ、 毒草、溝《どぶ》の金ぽうげ、 蠢《うご》めく蛆《うじ》をみる微睡《まどろみ》が むらさき色の、純金の 無数の線に陰影《かげ》をひく。 目次に戻る

黒いもの

見よ、おそろしい「時」の前兆《しるし》に ひなげしの花は美しく、 夜のかがやきに美しく、 音もなく萎れて散つた。 黒いもの 夜のかがやきに美しく、 その上に、 雨がふる。 黒いもの、 その上に雨がふる。 やすらかに美しく、 心にかへる悲哀よ、 わたし…

夜――夏のRYTHME

ただれたる真夏の光、 ひとみを呪へ、夜は踊る。 こざかしき昼顔の 花の如《ごと》き脆《もろ》きもの 露にしをれて嗟嘆《ためいき》す。 いとしや、 真夏となりつ、 眩《くる》めく影。 官能のせせら笑ひよ みにくき疲労、 何一つどよみ喚《うめ》かぬもの…

愛惜と悲哀

月の冷酷、月のなぐさめ、 妊婦と蛇のひとみに光をもとめつ、 わが黄金《きん》の色ざめた心は 「美」の悲哀にある。 皮膚に、ぽと燃え上り、 信実を映じた感覚、 「いのち」と「力」と……憂鬱なる 玩具《おもちや》の時計の音、 蜻蛉《とんぼ》に眠るわが霊…

悲痛を論ず

遠ければ彼方《あちら》の空、 わたしに何のかはりもない その空の雲の形。 私の眩しい瞳を指してくる 丘の畑《はたけ》をまつ直に ほそい懶《ものう》いCLARIONET. これぞ黒い弔《とむらひ》の歌、 大麦の穂並の光、 微風の様な「無限」の暗示。 …

SILHOUETTES

1 わが霊の如《ごと》き、緑玉よ はかなき生命《いのち》のかがやきは 鳴かで小鳥の飛ぶが如く、 或は夢に、ぬれて肌の景色となる。 さてこそ雪の序曲《プレリユド》…… 雪が懺悔《ざんげ》の、枯れにし禾堆《つか》の上、 わすれて悩む愛欲のめづらしさに …

SONATA

1 彩《いろど》れる夢の悲しさよ。 わが生命《いのち》は赤く、 おそろしき「美」の繊維をふるはせ、 萎みなやめる雛茶子は わすれたる涙に、匂ふ。 彩れる夢の悲しさよ、 「記憶」にうかぶ歌のとぎれを ほろび行くもの、 或いは濡れにし「生」の線条《ライ…

氈の上の哀歌

真白き君が蹠《あなうら》に ふまれて燃る、われは氈《かも》―― われは現世《このよ》をかなしみて 君を求めず、 夜としなれば我と唯《ただ》、君が頸《うなじ》の青き玉 夢そらごとのSERENADE. 君が瞳に「時」を知る。 そはやはらかに黙《もだ》す…