2006-01-21から1日間の記事一覧

いのり

つりばりぞそらよりたれつ まぼろしのこがねのうをら さみしさに さみしさに そのはりをのみ。 目次に戻る 傍点は太字で示した。 ルビは《》で示した。 旧漢字の一部を新字体になおした。 ルビは底本のもの以外に必要に応じて追加した 底本:「山村暮鳥全集…

ふところに電流を仕掛け 真珠首飾りのいりゆじよん ひかりまばゆし ぬつとつき出せ 餓ゑた水晶のその手を…… おお酒杯 何といふ間抜けな雪だ 何と……凝視《みつむ》るゆびさきの噴水。 目次に戻る

誘惑

ほのかなる月の触手 薔薇の陰影《かげ》のじふてりあ みなそこでなくした瞳 それらが壺にみちあふれる。 【まるめろ】のふくらみ 空間のたるみ そして愛の重み 蟲めがねの中なる悲哀。 目次に戻る

風景

純銀もざいく いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな かすかなるむぎぶえ いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのは…

午後

さめかけた黄《きいろ》い花かんざしを それでもだいじさうに 髪に挿すてゐるのは土蔵の屋根の 無名草 ところどころの腐つた晩春…… 壁ぎはに転がる古い空《から》つぽの甕 一つは大きく他は小さい そしてなにか秘密におそろしいことを計画《たくら》んでゐる…

燐素

指を切る 飛行機 麦の芽青み さみしさに さみしさに 瞳《め》を削げ 空にぷらちなの脚 胴体紫紺 冬は臍にこもり ひるひなか ひとすぢのけむりを立て。 目次に戻る

汝に

大空 純銀 船孕み 水脈 一念 腹に 臍あり。 目次に戻る

としよりのゐねむり ゐねむりは ぎんのはりをのむ たまのりむすめ ふゆのひのみもだえ そのはなさきに ぶらさがりたるあをぞら。 目次に戻る

癩病《らいびよう》める冬の夜天 聖霊のとんねる ふおくは悲しめ断末魔 純銀食堂車 卓上に接吻あり 卓上永生はかなしめ。 目次に戻る

蚤心抄

秋ふかみ さみしらに 栗鼠鳴き 瞳《め》を永遠につらならせ。 * 立てる十字架 立てるは胸の上 ひねもす にくしんの蟲を刺し。 * しろがねの ほんねんのかねは こずゑに しづかなり。 わがそら わがてのうへに ゆれゆれて したたる。 * やまにはやまのしん…

さりゆてゑしよん

純銀霜月の 光にびしよ濡れ いちねん 知恵の玉乗り 頭蓋《あたま》がないぞ、おい、 玉は陰影《かげ》を引き みちばたの草にかくれた。 目次に戻る

くれがた

くれがたのおそろしさ くりやのすみの玉葱 ほのぐらきかをりに浸りて 青き芽をあげ ものなべての罪は ひき窓の針金をつたはる。 目次に戻る

銘に

廃園の 一木一草 肉心 磁器 晶玉 天つひかりの手 せんまんの手 その手を おびえし水に浸し 目あざやか。 目次に戻る

模様

かくぜん めぢの外 秋澄み 方角 すでに定まり 大藍色天 電線うなる 電線目をつらぬき。 目次に戻る

気品

鴉は 木に眠り 豆は 鞘の中 秋の日の 真実 丘の畑 きんいろ。 目次に戻る

かみのけに ぞつくり麦穂 滴る額 からだ青空 ひとみに ひばりの巣を発見《みつ》け。 目次に戻る

持戒

草木を 信念すれば 雪ふり 百足《むかで》ちぎれば ゆび光り。 目次に戻る

印象

むぎのはたけのおそろしさ…… むぎのはたけのおそろしさ にほひはうれゆくゐんらく ひつそりとかぜもなし きけ、ふるびたるまひるのといきを おもひなやみてびはしたたり せつがいされたるきんのたいやう あいはむぎほのひとつびとつに さみしきかげをとりか…

十月

銀魚はつらつ ゆびさきの刺疼《うづ》き 真実 ひとりなり 山あざやかに 雪近し。 目次に戻る

岬の光り 岬のしたにむらがる魚ら 岬にみち盡《つ》き そら澄み 岬に立てる一本の指。 目次に戻る

かなしさに

かなしさに なみだかき垂れ 1銭の濁酒ささげん。 秋の日の水晶薫り 餓ゑて知る道のとほきを おん手の葦 おん足の泥まみれなる。 目次に戻る

曼陀羅

このみ きにうれ ひねもす へびにねらはる。 このみ きんきらり。 いのちのき かなし。 目次に戻る

発作

なにかながれる めをとぢてみよ おともなくながれるものを わがふねもともにながれる。 目次に戻る

楽園

寂光さんさん 泥まみれ豚 ここにかしこに 蛇からみ 秋冴えて わが瞳《め》の噴水 いちねん 山羊の角とがり。 目次に戻る

A FUTER

まつてゐるのは誰。土のうへの芽の合奏の進行曲である。もがきくるしみ転げ回つてゐる太陽の浮かれもの、心の日向葵の音楽。永遠にうまれない奇形な胎児のだんす、そのうごめく純白な無数のあしの影、わたしの肉体《からだ》は底のしれない孔だらけ……銀の長…

青空に

青空に 魚ら泳げり。 わがためいきを しみじみと 魚ら泳げり。 魚の鰭《ひれ》 ひかりを放ち ここかしこ さだめなく あまた泳げり。 青空に 魚ら泳げり。 その魚ら 心をもてり。 目次に戻る

愛に就て

瞳《め》は金貨 足あと銀貨 そして霙《みぞれ》ふり 涕《はなみづ》垂らして 物質の精神の冬はきたつけが もういつてしまつた。 目次に戻る

烙印

あをぞらに 銀魚をはなち にくしんに 薔薇を植ゑ。 目次に戻る

妄語

びおろんの胴の空間 孕《はら》める牝牛の蹄《ひづめ》 真実なるものには、すべて 或る一種の憂鬱がある。 くちつけのあとのとれもろ 麦の芽の青 またその色は藍で 金石のてざはり ぶらさがつた女のあし 茶褐で雪の性 土龍《もぐら》の毛のさみしい銀鼠 黄《…

図案

みなそこに壺あり 壺のなかなる蝙蝠《こうもり》は やみよの紋章 ふね坂をのぼり 朧《おぼろ》なる癲癇《てんかん》三角形 くされたる肉にさく薔薇《ばら》 さてはかすかな愛の痙攣《けいれん》。 目次に戻る