小野川温泉

露天風呂小町の湯

北風誘う晩秋に
タオルを下げた男が一人
ペンとノートを鞄に入れて
バスと歩みで辿り着く

遥か昔のみちのくへ
野越え山越え尋ね人
道行く疲れ湯に浸かり
再び小町《こまち》に戻すゆう

善意の小箱に小銭を入れて
湯の花浮かぶ露天の風呂へ
男のお湯では小町は来ぬが
身ぐるみ脱いで湯に浸かる

ヒゲ面《づら》男もつるつるに
熱き源泉コップに汲んで
飲めば効用あらたかに
硫黄の辛い味がする

ブナの後には杉がいい
松など栗など木の話
剥茸《むきたけ》わからぬ月夜茸《つきよたけ》
なめこ松茸《まつたけ》きのこの話

あちらの山はどれ取れる
こちらの山は何取れる
あちらこちらと指差しするが
どれかわからず雲見える

裸になれば皆同じ
トノサマガエルも旅人も
かくかくしかじか人生あれば
まあるい笑顔が今日もいる

   (2004.11.10)
 山形県米沢市小野川温泉にて露天風呂小町の湯に浸かる