ひとつの始まり

もう 望み無きこと、悲しみを願う。

夢に見るべき幸せも描けず
草原を走った思い出すらもない。
家族と撮った幼年時の写真は
安いフライパンの上で残らず焼けた。

これが世界 これが未来

世界の始まりは絶望であると考える。
何も無きこと、それはすべてがあることと同じ
完全なることは何も満たさない
絶望という完全性が世界をさいなんだ。
ひとつの完全なる絶望ではなく
多くの悲しみの絶望のカケラと
それがこの世界には敷き詰められていると

人は存在している
世界の始まりの意志に逆らって
その悲しみのカケラを拾い集めるために
人は幸せを夢み、望みを抱き
新しいより大きな絶望へと作り上げていく
大きなものを、より高き絶望を

人が集い、人を作り、形を成し
家を建て、街を作り、都市となる
だから、わたしのような細分化されている
絶望のカケラを持っている輩《やから》は
あの絶望を高く積み上げ、広く
レールをつなげ、開拓した都市達
その巨大な固まりのすべてに
精神を広く追いやられるのだ。

U字の渓谷、さらわれる砂浜
彼らはには何もない
日照りに皮膚《ひふ》を焼かれ
氷雨に足を削られ
世界の始まりの意志のままに
宇宙の果てへと光ゆく始まりの星達よ
私はより細かな絶望のカケラへと
雪原の中を歩いてゆくのである
朴訥《ぼくとつ》な魂へと。

    (2005.1.16)
 より深遠へと、心と世界を見つめれば見つめるほど、絶望へと囚われていく。世界の始まりは、完全性による絶望であると考えた。