[詩][感人] 戻る足は持てない

埋もれたる渚の巻貝手にとりて
うずに耳元かざして見ると
遠い潮の音《ね》聞こえるらしい
いずこにか主《あるじ》を失くせし二枚貝《にまいがい》
共に歩《あゆみ》し対なる貝しか
重なり合うこと無いという

幾重《いくえ》にも重なり合いし落葉とは
日差《ひざ》しを透《す》いて輝いた春
子供の声聞き揺らめいた夏
若者の恋色づいた秋
紅《くれない》を風に吸われて色あせたもの
一葉《いちよう》として同じものなし

はるかなる古よりの山々で
無窮《むきゅう》の力たたえし山で
見つめ合う相手すらをも見つけずに
自《みずか》らのみをちれぢれにして
時を経《へ》し誇りすらをも忘れ行き
土の中へと消えてゆくのか

里山歩くものは少なし
鳥居の先は神のみぞ知る
道行く我にただ踏まれ行く
枯葉の心酷《ひど》く孤独で
ガサリと響く叫びに聞きし
来た道戻る足は持てない

  (2004.11.7)
 陸前白沢の前山に登った時のちぢこまる枯葉に
7・5調だが、上からリズムを、757・77・77・757・77・77、757・77・77・77・757・77、757・77・757・77・757・77、77・77・77・77・77・77 としてセクションごとに調子を変えてみた。詠みにくい感じがあるが、一つの試みとして。