孤高《ここう》の男

一人夕暮れさまよえば
秋の里山《さとやま》前にして
色を失う者達の
群れて漂う声がする

道に連なるススキ穂の
風に吹かれて寄るしぐさ
頼る者なき一人身の
荒き世に立つわびしさよ
サワワ サワサ ワササワワ

山間《やまま》に広がる田園の
ハゲた頭に散った藁
夢を絶たれた侍の
藁にもすがるこの思い
ザララ ザワワ ザラザワワ

山の森からほだされて*1
色づくことなきこの我が身
夏にとどろく大木も
幹(み)から枝から泣いている
カササ カサラ カラカササ

色ある頃ははかなくて
赤や黄色はまじりども
新たに散り来る同類に
上から踏まれて音をあげる
ガサラ ガササ ガサガサラ

示し合わせはなきけれど
サワワ カササ ザララ ガサラ
サワサ カサラ ザワワ ガササ
ワササワワ ザラザワワ
カサカササ ガサガサラ

さみしき者の鎮魂歌《ちんこんか》
共にうなづき地を揺らす
互いの音は聞こえしが
集まる音は風に揺れ
枯野の先に消えてゆく

知る人ぞなきこの土地で
風につぶやくこの男
波風立てず泡立てず
誰も聞かざるこの詩《うた》を
一人詩合*2《しあわせ》歩き去る

色欲《しきよく》多きこの世界
孤高《ここう》の者は少なけり
はかなき心を知る者よ
君の音聞きしこの我の
心の詩《うた》も聞いとくれ

    (2004.11.7-8)
 陸前白沢にある前山を登り、雑木林の中の深い枯葉と対照的な松を見る。翌日会津に出かけ、藩校日新館を見学した後、バスがなく会津若松方面に歩いている時、道に連なるススキと広がる田圃を眺めて。2章目はススキ、3章目は田圃の藁、4章目は松、5章目は枯葉を差す。


*1:情にひかされて自分の考えにない行動をとること。一人大木として立ちたいが、色づき枯れてゆくものたちに心を揺らされて、身体を揺らし葉を落とす意

*2:二手に分かれて漢詩を作り、判者がその優劣を判定して勝ち負けを決める競技。