たたみの 部屋は 青く
私を しめらす
長らく 狭い 部屋で
一人 夜 本を 読んだ

風が 止み
音が 一つ 消えた
月の ない 晩だ
一人 夜 本を 読んだ

部屋を 照らす 明かり
裸電球が 赤く
人の 死が 見えた
一人 夜 本を 読んだ

息を 深く 吐くと
紙は 赤く 燃えて
文字は 黒く 浮かぶ
一人 夜 本を 読んだ

部屋は 白く 燻り 
鼻の穴を 蒸して
宙に 消えた
一人 夜 本を 読んだ

月も 音も 火《ひ》も 消え
だが 暑く 熟れた
目を 閉じて めくり
一人 夜 本を 読んだ

そう  消えよう
もう  なかった
紙に 遺書を 書いて
一人 夜 本を 読んだ

腹を 掻いて
口を 結び
足を 組んで 座した
一人 夜 本を 読んだ

足の 爪を 切り
手の 爪を 削《そ》いで
床の 上に 撒いた
一人 夜 本を 読んだ

一つ 土を かけて
二つ 水を そそぎ
三つ 息を はいて
一人 夜 本を 読んだ

星が 一つ 落ちて
海が 二つ 消えて
芽が 三つ 伸びた
一人 夜 本を 読んだ

朝は 戻り
音が鳴り 光《ひ》が 生まれ
羽が 開く
一人 夜 本を 読んだ

陽《ひ》は 部屋を 照らし
熱く 音を 上げた
手 腹 顔 耳
一人 夜 本を 読んだ

影は 薄く 歪み
生きた 熱は 消えて
胴に 足が 入り
一人 夜 本を 読んだ

腕は 顔に ついて
腹が 透いて 消えると
目が 二つ 落ちた
一人 夜 本を 読んだ

一人 夜 本を 読んでいた

 (2005.6.25)
    夜中に目覚め、消えようと思った