風土によせて

小粒な葡萄《ぶだう》
浅間の葡萄
私は もう
幾年もたべたことがない
初夏の火山の麓を走る
汽車の歩みは
まことにのろい
岩石の間から
白雲の湧くやうな――
そんな壮《さか》んな風景の中で
汽車は ごくんと急に停つた
真昼の静寂《しじま》
緑の木蔭で
杜鵑《ほととぎす》が鳴いてゐた
さうして
浅間の原の日光《ひかり》と風に
私は思ひ出してゐた
もう幾年もたべてみない
あんな小さな一つの自然を

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