2005-08-13 風土によせて 詩 津村信夫 小粒な葡萄《ぶだう》 浅間の葡萄 私は もう 幾年もたべたことがない 初夏の火山の麓を走る 汽車の歩みは まことにのろい 岩石の間から 白雲の湧くやうな―― そんな壮《さか》んな風景の中で 汽車は ごくんと急に停つた 真昼の静寂《しじま》 緑の木蔭で 杜鵑《ほととぎす》が鳴いてゐた さうして 浅間の原の日光《ひかり》と風に 私は思ひ出してゐた もう幾年もたべてみない あんな小さな一つの自然を 目次に戻る