2005-08-13 炉 詩 津村信夫 ――戸隠の炉端 主人《あるじ》は最後に お社《やしろ》のうしろで真紅《まつか》な鳥を見た さう云つて話すと一息いれた ――もう話はみんなです 山がお気に入りましたか ――もつと話して下さい 自然のことを ――さてなんだらう 自然と云つて 私達初め まるで立木のやうだで ――ああ さうです あなた方の あなた方のなかにある自然を…… 主人《あるじ》は答へず榾火《ほたび》を掻《か》いた 母親の傍で 末の子は眠つてゐた 今のいま乾燥《はしや》いだ子が もう虫声を枕にして 目次に戻る