2005-08-13 厨 詩 津村信夫 煤《すす》けた厨《くりや》の明り窓の下に 玉葱と人参がひつそりと置いてあつた 帰つて来た子供が又遊びに出て行つた 蛾がきて電燈の球を一周《ひとまは》りした 湯が滾《たぎ》つてゐた 竈《かまど》の火が赤かつた 往還《わうくわい》の夕方を 篠《しの》ノ井の林檎売が荷車を曳いてすぎて行つた 呼んでゐる 誰かが誰かを呼んでゐる 思ひ出のやうに 前掛をして老けた顔の女が立つてゐた 目次に戻る