2005-08-13 炉のほとり 詩 津村信夫 冬が近づく 凍《い》てた野面《のづら》に霜が白く光つてゐる 冬がちかづく 私は幼時に聴いた 狼の話を思い出してゐる かつて 好奇と恐れの心から聴いた物語 今はまるで冬の前ぶれのやうに 単純に――だが習慣のやうに 寒気が新らしく蘇《よみがへ》つてくる 狼が来る 狼がくる 幻の狼が雪の道を踏んでくる 目次に戻る