戸隠姫

山は鋸《のこぎり》の葉の形
冬になれば 人は往かず
峰の風に 屋根と木が鳴る
こうこうと鳴ると云ふ
「そんなに こうこうつて鳴りますか」
私の問ひに
娘は皓《しろ》い歯を見せた
遠くの薄は夢のやう
「美しい時ばかりはございません」

初冬《しよとう》の山は 不開《あけず》の間
峰吹く風をききながら
不開《あけず》の間では
坊の娘がお茶をたててゐる
二十《はたち》を越すと早いものと
娘は年齢《とし》を云はなかつた

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