2005-08-13 戸隠姫 詩 津村信夫 山は鋸《のこぎり》の葉の形 冬になれば 人は往かず 峰の風に 屋根と木が鳴る こうこうと鳴ると云ふ 「そんなに こうこうつて鳴りますか」 私の問ひに 娘は皓《しろ》い歯を見せた 遠くの薄は夢のやう 「美しい時ばかりはございません」 初冬《しよとう》の山は 不開《あけず》の間 峰吹く風をききながら 不開《あけず》の間では 坊の娘がお茶をたててゐる 二十《はたち》を越すと早いものと 娘は年齢《とし》を云はなかつた 目次に戻る