2005-12-02 憔悴 詩 中原中也 Ⅰ 私はも早、善い意志をもつては目覚めなかつた 起きれば愁《うれ》はしい 平常《いつも》のおもひ 私は、悪い意思をもつてゆめみた…… (私は其処《そこ》に安住したのでもないが、 其処を抜け出すことも叶《かな》はなかつた) そして、夜が来ると私は思ふのだつた、 此の世は、海のやうなものであると。 私はすこししけてゐる宵の海をおもつた 其処を、やつれた顔の船頭は おぼつかない手で漕ぎながら 獲物があるかあるまいことか 水の面《おもて》を、にらめながらに過ぎてゆく