或る風景

みろ
大暴風の蹴ちらした世界を
此のさつぱりした惨酷《むごた》らしさを
骸骨のやうになつた木のてつぺんにとまつて
きりきり百舌鳥《もず》がさけんでゐる
けろりとした小春日和
けろりとはれた此の蒼空よ
此のひろびろとした蒼空をあふいで恥ぢろ
大暴風が汝等のあたまの上を過ぐる時
汝等は何をしてゐた
その大暴風が汝等に呼びさまさうとしたのは何か
汝等はしらない
汝等の中にふかく睡《ねむ》つねてゐるものを
そして汝等はおそれおののき両手で耳をおさへてゐた
なんといふみぐるしさだ
人間であることをわすれてあつたか
人間であるからに恥ぢよと
けろりとはれ
あたらしく痛痛しいほどさつぱりとした蒼空
その下で汝等はもうあらしも何も打ちわすれて
ごろごろと地上に落ちて転つてゐる果実《きのみ》
泥だらけの青い果実をひろつてゐる
おお此の蒼空!

目次に戻る