農夫の詩

おいらをまつてゐる
あの山かげへ
けふもまたおいらは馬と田圃をすきに行くんだ
あそこは酷い痩地だけれど
どんなにおいらをまつてるか
すけばそれでも黒黒と
そこに冬ごもりをしてゐた蛙が巣をこはされてぴよんぴよん飛びだす
雀や鴉がどこからともなく群集する
おいらの馬は家中一ばんの働き手だ
おいらは馬と一しよであるのがどんなにすきだか
おいらが馬のかはりをすれば
馬はおいらのことをする
かうしてたがひに生きてゆくんだ
おてんとうさま
ああ、けふといふけふの此の幸福
何といふ大きな蒼天《あをぞら》でせう
そしておいらがうたひだすと
耳をぴんとつつ立てて
ばかに鼻息あらあらしく
犁《すき》をもつ手もあぶないほど
おいらの馬はすこし元気になりすぎます

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