2006-07-01 山に登る 詩 萩原朔太郎 旅よりある女に贈る 山の山頂にきれいな草むらがある、 その上でわたしたちは寝ころんで居た。 眼をあげてとほい麓の方を眺めると、 いちめんにひろびろとした海の景色のやうにおもはれた。 空には風がながれてゐる、 おれは小石をひろつて口《くち》にあてながら、 どこといふあてもなしに、 ぼうぼうとした山の頂上をあるいてゐた。 おれはいまでも、お前のことを思つてゐるのだ。 目次に戻る