2006-07-01 酒精中毒者の死 詩 萩原朔太郎 あふむきに死んでゐる酒精中毒者《よつぱらひ》の、 まつしろい腹のへんから、 えたいのわからぬものが流れてゐる、 透明な青い血漿《けつしよう》と、 ゆがんだ多角形の心臓と、 腐つたはらわたと、 らうまちすの爛《ただ》れた手くびと、 ぐにやぐにやした臓物と、 そこらいちめん、 地べたはぴかぴか光つてゐる、 草はするどくとがつてゐる、 すべてがらぢうむのやうに光つてゐる。 こんなさびしい風景の中にうきあがつて、 白つぽけた殺人者の顔が、 草のやうにびらびら笑つてゐる。 目次に戻る