蝶を夢む

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼《はね》をひろげる
蝶のちひさな 醜い顔とその長い触手と
紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。
わたしは白い寝床のなかで眼をさましてゐる。
しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする
夢はあはれにさびしい秋の夕べの物語
水のほとりにしづみゆく落日と
しぜんに腐りゆく古き空家にかんするかなしい物語。

夢をみながら わたしは幼な児のやうに泣いてゐた
たよりのない幼な児の魂が
空家の庭に生える草むらの中で しめつぽいひきがへるのやうに泣いてゐた。
もつともせつない幼な児の感情が
とほい水辺のうすらあかりを恋するやうに思はれた
ながいながい時間のあひだ わたしは夢をみて泣いてゐたやうだ。

あたらしい座敷のなかで 蝶が翼《はね》をひろげてゐる
白い あつぼつたい 紙のやうな翼《はね》をふるはしてゐる。

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