腕のある寝台

綺麗なびらうどで飾られたひとつの寝台
ふつくりとしてあつたかい寝台
ああ あこがれ こがれいくたびか夢にまで見た寝台
私の求めてゐたただひとつの寝台
この寝台の上に寝るときはむつくりとしてあつたかい
この寝台はふたつのびらうどの腕をもつて私を抱く
そこにはたのしい愛の言葉がある
あらゆる生活《らいふ》のよろこびをもつたその大きな胸の上に
私はすつぽりと疲れたからだを投げかける
ああこの寝台の上にはじめて寝るときの悦びはどんなであらう
そのよろこびはだれも知らない秘密のよろこび
さかんに強い力をもつてひろがりゆく生命《いのち》のよろこびだ。
みよ ひとつの魂はその上にすすりなき
ひとつの魂はその上に合掌するまでにいたる
ああかくのごとき大いなる愛憐の寝台はどこにあるか
それによつて悩めるものは慰められ 求めるものはあたへられ
みなその心は子供のやうにすやすやと眠る
ああ このひとつの寝台 あこがれもとめ夢にみるひとつの寝台
ああこの幻《まぼろし》の寝台はどこにあるか。

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