冬の海の光を感ず

遠くに冬の海の光をかんずる日だ
さびしい大浪《おほなみ》の音《おと》をきいて心はなみだぐむ。
けふ沖の鳴戸を過ぎてゆく舟の乗手はたれなるか
その乗手等の黒き腕《かひな》に浪の乗りてかたむく

ひとり凍れる浪のしぶきを眺め
海岸の砂地に生える松の木の梢を眺め
ここの日向に這ひ出づる虫けらどもの感情さへ
あはれを求めて砂山の影に這ひ登るやうな寂しい日だ
遠くに冬の海の光をかんずる日だ
ああわたしの憂愁のたえざる日だ
かうかうと鳴るあの大きな浪の音をきけ
あの大きな浪のながれにむかつて
孤独のなつかしい純銀の鈴をふり鳴らせよ
わたしの傷める肉と心。

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