2006-12-01 波止場の烟 詩 萩原朔太郎 野鼠は畠にかくれ 矢車草は散り散りになつてしまつた 歌も 酒も 恋も 月も もはやこの季節のものでない わたしは老いさらばつた鴉のやうに よぼよぼとして遠国の旅に出かけて行かう さうして乞食どものうろうろする どこかの遠い港の波止場で 海草の焚けてる空のけむりでも眺めてゐよう ああ まぼろしの乙女もなく しをれた花束のやうな運命になつてしまつた 砂地にまみれ 礫利食《じやりくひ》がにのやうにひくい音《ね》で泣いて居よう。 目次に戻る