吠える犬

月夜の晩に、犬が墓地をうろついてゐる。
この遠い、地球の中心に向つて吠えるところの犬だ。
犬は透視すべからざる地下に於て、深くかくされたるところの金庫を感知することにより。
金庫には翡翠および夜光石をもつて充たされたることを感応せることにより。
吠えるところの犬は、その心霊に於てあきらかに白熱され、その心臓からは蛍光線の放射のごときものを透影する。
この青白い犬は、前足をもつて堅い地面を掘らんとして焦心する。
遠い、遠い、地下の世界において微動するものを感応することにより。
吠えるところの犬は哀傷し、狂号し、その明らかに直視するものを掘らんとして、かなしい月夜の墓地に焦心する。

吠えるところの犬はである。
なんぢ、忠実なる、敏感なる、しかれどもまつたく孤独なる犬よ。
汝が吠えることにより、病児をもつた隣人のために銃をもつて撃たれるまで。
吠えるところの犬は、青白き月夜においてのである。

目次に戻る