黒い蝙蝠

わたしの憂鬱は羽ばたきながら
ひらひらと部屋中を飛んでゐるのです。
ああなんといふ幻覚だらう
とりとめもない怠惰な日和が さびしい涙をながしてゐる。
もう追憶の船は港をさり
やさしい恋人の捲毛もさらさらに乾いてしまつた
草場に昆虫のひげはふるへて
季節は亡霊のやうにほの白くすぎてゆくのです。
ああ私はなにも見ない。
せめては片恋の娘たちよ
おぼろにかすむ墓場の空から 夕風のやさしい歌をうたつておくれ。

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