石竹と青猫

みどりの石竹の花のかげに ひとつの幻の屍体は眠る
その黒髮は床にながれて
手足は力なく投げだされ 寝台の上にあふむいてゐる。
この密室の幕のかげを
ひそかに音もなくしのんでくる ひとつの青ざめたふしぎの情慾
そはむしかへす麝香になやみ
くるしく はづかしく なまめかしき思ひのかぎりをしる。
ああいま春の夜の灯かげにちかく
うれしくも屍蝋のからだを嗅ぎてもてあそぶ
やさしいくちびるに油をぬりつけ すべすべとした白い肢体をもてあそぶ。
そはひとつのさびしい青猫
君よ夢魔におびえて このかなしい戯れをとがめたまふな。

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