天路巡歴

おれはかんがへる
おれの長い歴史から
なにをして来たか
なにを学問したか
なにを見て来たか。

いつさいは秘密だ
だがなんて青い顔をした奴らだ
おれの腕にぶらさがつて
蛇のやうにつるんでゐた奴らだ
おれは決して忘れない
おれの長い歴史から
あいつらは
死よりも恐ろしい秘密だ。

おれはかんがへる
そのときまるであいつらの眼が
おれの手くびにくつついてゐたことを
おれの胴体に
のぞきめがねを仕掛けた奴らだ
おれをひつぱたく
おれの力は
馬車馬のやうにひつぱたく。

そしてだんだんと
おれは天路を巡歴した
異様な話だが
おれはじつさい 独身者《ひとりみ》であつた。

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