2007-02-09 厭やらしい景物 詩 萩原朔太郎 雨のふる間 眺めは白ぼけて 建物 建物 びたびたにぬれ さみしい荒廃した田舎をみる そこに感情をくさらして かれらは馬のやうにくらしてゐた。 私は家の壁をめぐり 家の壁に生える苔をみた かれらの食物は非常にわるく 精神さへも梅雨じみて居る。 雨のながくふる間 私は退屈な田舎に居て 退屈な自然に漂泊してゐる 薄ちやけた幽霊のやうな影をみた。 私は貧乏を見たのです このびたびたする雨気の中に ずつくり濡れたる 孤独の 非常に厭やらしいものを見たのです。 目次に戻る