2007-02-09 囀鳥 詩 萩原朔太郎 軟風のふく日 暗鬱な思惟《しゐ》にしづみながら しづかな木立の奥で落葉する路を歩いてゐた。 天気はさつぱりと晴れて 赤松の梢にたかく囀鳥の騒ぐをみた 愉快な小鳥は胸をはつて ふたたび情緒の調子をかへた。 ああ 過去の私の鬱陶しい瞑想から 環境から どうしてけふの情感をひるがへさう かつてなにものすら失つてゐない 人生においてすら。 人生においてすら 私の失つたのは快適だけだ ああしかし あまりにひさしく快適を失つてゐる。 目次に戻る